アルツハイマー病の研究と聞くと、多くの方が、脳にたまるアミロイドβ(ベータ)をどう減らすかという話を思い浮かべるかもしれません。実際、これまでの治療開発の多くは、たまってしまったこの老廃物そのものを標的にしてきました。
ところが2026年6月、その流れとは違う切り口からの研究が、専門誌『ACS Chemical Neuroscience』に発表されました。
注目したのは、老廃物を減らすことではなく、脳から運び出すしくみのほうです。脳には、不要になったたんぱく質を外へ送り出す排出ポンプが備わっています。
このポンプが弱ると、ゴミは行き場をなくして脳にたまっていく。それなら、ポンプそのものを立て直せばよいのではないか。研究チームはそう考えました。
使われたのは、Cu(ATSM)(シーユー・エーティーエスエム)という銅をふくむ化合物です。アルツハイマー病のモデルマウスにこの化合物を投与したところ、排出ポンプの量が増え、脳の老廃物が減り、学習の成績まで向上したと報告されています。
今回は、この新しい着眼点をめぐる研究を読み解いていきます。
◼️記事の要点
アルツハイマー病の脳では、老廃物であるアミロイドβを外へ運び出す「排出ポンプ(P-糖タンパク質)」の働きが落ちていることが知られています。
銅化合物Cu(ATSM)をモデルマウスに56日間投与したところ、このポンプの量が増え、アミロイドβが減り、空間学習の成績も向上したと報告されました。
たまった老廃物を直接たたくのではなく、運び出すポンプそのものを修復する。神経血管のはたらきに着目した、新しいアプローチが示されました。