1953年9月、イギリスで砂糖の配給制が終わりました。第二次世界大戦のさなかに始まった砂糖と菓子の割り当ては、戦争が終わってからも8年ものあいだ続き、この月にようやく解かれます。
街の菓子屋の前には行列ができ、大人一人あたりの砂糖の消費量は、その後わずかな期間でおよそ二倍に跳ね上がったと記録されています。
配給が続いていたあいだ、2歳未満の子どもには砂糖の割り当てそのものがありませんでした。つまり1953年9月をはさんで、生まれてすぐの数年を「砂糖がほとんど手に入らない環境」で過ごした人と、「砂糖が急に豊富になった環境」で過ごした人とが、同じ国の同じ世代のなかに分かれて存在することになります。
本人が選んだわけでも、家庭の方針でもなく、生まれた月だけで振り分けられた線引きです。
それから70年あまり。2026年、研究チームがこの偶然の線引きに着目し、イギリスの大規模健康データベースであるUKバイオバンクから6万394人分の記録を解析しました。
生まれてすぐの数年間の砂糖が、70代を迎えた脳にどんな差を残していたのか。報告された結果は、想像以上にはっきりしたものでした。
記事の要点
1953年9月まで続いたイギリスの砂糖配給制を利用した6万394人の解析で、人生最初の1,000日を砂糖の少ない環境で過ごした人はアルツハイマー病の発症リスクが46%低いと報告されました。
認知症全体では27%、不安では20%、うつ病では11%、それぞれリスクが低い傾向が示され、パーキンソン病との関連は見られませんでした。
9,053人のMRI解析では、砂糖が少なかった群の脳年齢が平均0.39歳若く、記憶に関わる海馬や視床の体積が大きく保たれていました。