マグネシウムは騒音による聴覚障害から保護する:軍新兵300人の二重盲検試験

マグネシウムは騒音による聴覚障害から保護する:軍新兵300人の二重盲検試験

騒音による難聴(騒音性難聴)は、世界中で大きな健康問題のひとつです。工場や建設現場、コンサート会場、さらには日常的なイヤホンの大音量使用まで、私たちの耳は思っている以上に強い音にさらされています。

一度損傷を受けた内耳の有毛細胞は再生しないため、騒音性難聴は基本的に不可逆的、つまり元に戻りません。

日本でも騒音性難聴は職業性疾病のなかで上位に位置しており、製造業や自衛隊などの現場では大きな課題となっています。

また近年では、若い世代のイヤホン・ヘッドホン難聴への懸念も高まっています。耳栓や防音イヤーマフといった物理的な防護に加えて、栄養面からのアプローチで聴覚を守れないかという研究も進んでいます。

今回紹介するのは、1994年にイスラエルの研究チームがAmerican Journal of Otolaryngology誌に発表した研究です。

軍の基礎訓練中に強い衝撃音にさらされる300人の新兵を対象に、マグネシウムの経口摂取が騒音による永続的な聴力低下を予防できるかを、プラセボ対照二重盲検試験という信頼性の高い方法で検証しました。

◼️記事の要点

  • 300人の軍新兵を対象にした二重盲検プラセボ対照試験で、マグネシウムの経口摂取が騒音による永続的な聴力低下(NIPTS)を有意に軽減した。
  • プラセボ群では永続的聴力低下の発生率が11.5%だったのに対し、マグネシウム群ではわずか1.2%だった。
  • マグネシウムの保護効果は特に両側性の聴力障害において顕著であり、血中マグネシウム濃度と聴力変化に有意な相関が認められた。

研究の背景:動物実験で見えたマグネシウムと聴覚の関係

この研究に先立つ動物実験では、血中マグネシウム濃度と騒音による永続的な聴力閾値の変動(NIPTS)との間に相関が認められていました。

マグネシウムは体内で多くの酵素反応に関わるミネラルで、血管の拡張、カルシウムの拮抗、さらには抗酸化作用にも関与しています。

内耳の蝸牛は非常に繊細な構造をしており、強い騒音にさらされると血流が低下し、活性酸素が発生して有毛細胞がダメージを受けます。

マグネシウムにはこうした障害を軽減する可能性があると考えられていたのです。

こうした動物実験の知見を受けて、研究チームは実際のヒトでもマグネシウムの予防効果が確認できるかを検証することにしました。

研究の方法:300人の新兵を対象にした二重盲検試験

この研究には、イスラエル軍の基礎訓練に参加する300人の若く健康で聴力が正常な新兵が参加しました。

2か月間の訓練期間中、彼らは耳栓を着用しながらも、繰り返し高レベルの衝撃音(銃火器の発射音、ピークレベル平均164dB(A))にさらされました。

被験者は無作為に2つのグループに割り付けられました。一方のグループには毎日6.7mmol(167mg)のマグネシウムアスパラギン酸塩を含む飲料が、もう一方のグループには見た目や味が同じプラセボ(ナトリウムアスパラギン酸塩)が提供されました。

被験者も研究者も、どちらのグループにどの飲料が渡されているかを知らない二重盲検法で実施されました。

訓練前後に聴力検査が行われ、少なくとも1つの周波数で25dBを超える聴力閾値の上昇があった場合を永続的聴力閾値変動(NIPTS)と定義しました。また、血液検査によってマグネシウム濃度(血清、赤血球、リンパ球)も測定されました。

研究の結果:マグネシウム群で聴力低下が大幅に減少

結果は明確でした。プラセボ群では永続的な聴力低下(NIPTS)の発生率が11.5%であったのに対し、マグネシウム群ではわずか1.2%にとどまりました。

つまり、マグネシウムを摂取したグループでは、聴力が永続的に損なわれるリスクが大幅に低かったのです。

とりわけ両側性(両耳)の聴力障害については、マグネシウム群での発生がプラセボ群と比較してさらに低い割合でした。

また、4kHz、6kHz、8kHzといった高周波域(騒音性難聴が現れやすい帯域)において、プラセボ群ではマグネシウム群の約2倍の割合で25dBを超える聴力低下が認められました。

血液検査の結果からは、両群ともに訓練期間中に血清および赤血球中のマグネシウム濃度が上昇していましたが、リンパ球中のマグネシウム濃度はマグネシウム摂取群でのみ上昇しました。

研究チームは、このリンパ球中マグネシウム濃度の変化が細胞内のマグネシウム状態をより正確に反映し、聴覚保護効果と関連している可能性があると考えています。

マグネシウムが聴覚を守るメカニズム

マグネシウムが騒音性難聴を予防するメカニズムについては、複数の仮説が提唱されています。

まず、マグネシウムにはカルシウム拮抗作用があり、騒音によって過剰に流入するカルシウムイオンから蝸牛の有毛細胞を守る可能性があります。

過剰なカルシウムの流入は細胞死を引き起こすことが知られており、マグネシウムがこのプロセスをブロックすると考えられています。

次に、マグネシウムには血管拡張作用があり、騒音によって低下した蝸牛の血流を改善する効果が期待されます。

蝸牛への血液供給が維持されれば、有毛細胞への酸素や栄養の供給が保たれ、ダメージからの回復も促進されます。

さらに、マグネシウムは活性酸素種の産生を抑える抗酸化的な役割も持っています。

騒音にさらされた蝸牛では、曝露後7~10日間にわたってフリーラジカルの産生が続くことが知られており、この期間にマグネシウムが存在することで細胞へのダメージが軽減される可能性があります。

加えて、マグネシウムにはNMDA受容体の過剰な活性化を抑える作用もあるとされています。

NMDAは興奮性の神経伝達物質であるグルタミン酸の受容体であり、その過剰な活性化は蝸牛の神経細胞に毒性を及ぼします。

日常生活への示唆

この研究は軍の訓練という極端な騒音環境で行われたものですが、その知見は日常生活にも示唆を与えてくれます。

マグネシウムは豆腐、納豆、ほうれん草、アーモンド、海藻類など、日本の食卓になじみのある食品に多く含まれています。

騒がしい環境で仕事をしている方や、音楽を大音量で聴く習慣のある方は、耳の保護具の使用に加えて、日頃からマグネシウムを十分に摂取しておくことが聴覚を守る一助になるかもしれません。

ただし、この研究は1994年のものであり、被験者が若い男性の軍新兵に限られている点には注意が必要です。

女性や高齢者、あるいは異なる種類の騒音環境(工場騒音や音楽など)での効果については、さらなる検証が必要です。

まとめ

本研究は、1日167mgのマグネシウム(アスパラギン酸塩)の経口摂取が、強い衝撃音にさらされる環境において永続的な聴力低下のリスクを大幅に低減することを、プラセボ対照二重盲検試験という高い信頼性を持つ方法で示したものです。

プラセボ群の発生率11.5%に対し、マグネシウム群では1.2%と、その差は歴然としていました。
騒音性難聴は一度起きると回復しないため、予防が何よりも重要です。

耳栓や防音具の使用はもちろんですが、マグネシウムを含む食品を日常的に意識して摂ることは、体の内側からの聴覚保護策として検討する価値があるかもしれません。

◼️出典

Attias, J., Weisz, G., Almog, S., Shahar, A., Wiener, M., Joachims, Z., Netzer, A., Ising, H., Rebentisch, E., & Guenther, T. (1994). Oral magnesium intake reduces permanent hearing loss induced by noise exposure. American Journal of Otolaryngology, 15(1), 26-32.

DOI: https://doi.org/10.1016/0196-0709(94)90036-1