ヨウ素は、甲状腺ホルモンの材料となる微量ミネラルです。体内では合成できないため、食事から摂取する必要があります。甲状腺ホルモンは全身の代謝を調節し、体温や心拍数の維持、脳の発達、エネルギー代謝など、あらゆる生命活動に関わっています。
20世紀初頭、ヨウ素不足による甲状腺腫(首の腫れ)が世界中で深刻な問題となっていました。1920年代に欧米で食塩へのヨウ素添加が始まり、この対策は公衆衛生史上もっとも成功した介入のひとつと評価されてきました。ちなみに日本では、海藻から十分なヨウ素が摂れるため、食塩へのヨウ素添加は現在も行われていません。
ところが近年、ヒマラヤ岩塩やフランス産の海塩フレーク、コーシャソルトといった天然塩の人気が急上昇し、ヨウ素が添加された普通の食卓塩が敬遠されるようになっています。
こうした流れは、欧米を中心に静かな栄養危機を引き起こしているようです。日本は海藻文化のおかげでヨウ素が豊富に摂れる国として知られていますが、食生活が変化しつつあるいま、この問題と完全に無縁とは言い切れません。
New Scientist誌のコラムニスト、アリス・クラインの記事をもとに、世界で起きているヨウ素不足の現状と、日本のヨウ素事情を整理してみます。
記事の要点
- 米国では、ヨウ素の摂取不足に該当する人の割合が2001年から2018年の間にほぼ2倍に増え、妊婦の46%がヨウ素摂取の推定平均必要量を満たしていない。
- ヒマラヤ岩塩やコーシャソルトなどの天然塩にはヨウ素が添加されておらず、加工食品に使われる塩もほとんどがヨウ素非添加であるため、これらの普及がヨウ素不足の一因となっている。
- 日本は海藻の摂取習慣があるためヨウ素不足は起きにくいが、食の欧米化や海藻離れが進めば将来的にリスクが高まる可能性がある。