亜鉛は、体内で300種類以上の酵素反応に関わるミネラルです。免疫機能、細胞分裂、傷の治癒、味覚の維持など、さまざまな生理機能に不可欠であることは広く知られています。
しかし、亜鉛が不足したとき、体の中で具体的にどのような分子メカニズムが働いて遺伝子の発現が変わり、病気につながるのかについては、長いあいだ謎のままでした。
日本では、脂肪肝は成人の約3人に1人が抱えるとされる非常に身近な疾患です。食事の偏りや運動不足、飲酒が主なリスク要因とされてきましたが、栄養素の不足、とりわけ亜鉛の不足がどのように脂肪肝に結びつくのかは十分に解明されていませんでした。
厚生労働省の国民健康・栄養調査でも、日本人の亜鉛摂取量は推奨量を下回る傾向が続いています。
そうした中、2026年2月にNature Communications誌に発表された東京科学大学の研究が、この謎を解く大きな手がかりを示しました。
研究チームは、亜鉛が不足するとヒストンという遺伝子の読み取りを制御するタンパク質の修飾が変化し、それが肝臓での脂肪蓄積を促進することを世界で初めて明らかにしたのです。

記事の要点
- 亜鉛が不足すると、ヒストンアセチル基転移酵素KAT7が亜鉛を失って活性を低下させ、ヒストンH3の14番目のリジン残基のアセチル化(H3K14ac)が特異的に減少する。これにより遺伝子の発現パターンが変化することが解明された。
- H3K14acの減少は、亜鉛トランスポーターZIP10の発現を上昇させて細胞内の亜鉛量を回復させる恒常性維持機構として機能する一方で、肝臓における脂肪蓄積を促進する。
- 高脂肪食を与えたマウスの肝臓で亜鉛量の低下が確認され、亜鉛欠乏によるH3K14acの減少が脂肪肝を誘発することが動物モデルで実証された。栄養状態と脂肪肝をつなぐ新たなエピゲノム制御基盤が提示された