パーキンソン病、アルツハイマー病、脳梗塞。これらの疾患に共通する問題のひとつが、細胞のエネルギー産生機能の低下です。
私たちの体を動かすエネルギーのほとんどは、細胞の中にある小さな器官、ミトコンドリアが作り出しています。
ミトコンドリアは細胞の発電所とも呼ばれ、酸素を使ってエネルギー物質のATP(アデノシン三リン酸)を生産します。
このミトコンドリアが正常に機能しなくなると、細胞は自力での修復や維持ができなくなり、やがて死滅していきます。
日本でも認知症患者数は増加の一途をたどっており、2025年には約700万人に達すると推計されています。神経変性疾患の根本的な治療法はまだ確立されておらず、現在の薬は症状を和らげるにとどまるものがほとんどです。
そうした中で、細胞のエネルギー問題そのものにアプローチする新しい治療の概念として、近年「ミトコンドリア移植療法」が世界的に注目を集めています。
2025年12月、東京理科大学の研究チームが、このミトコンドリア移植療法の科学的基盤となる重要な研究成果をScientific Reportsに発表しました。
移植されたミトコンドリアが細胞にどのように取り込まれ、実際にエネルギー産生を回復させるのか、その仕組みを世界で初めて詳細に解明した研究として、国際的に大きな注目を集めています。
記事の要点
- 東京理科大学の研究チームが、健康な細胞から単離したミトコンドリアを間葉系間質細胞(MSC)に移植したところ、細胞が複数の経路を使ってミトコンドリアを能動的に取り込み、取り込んだ後すぐにエネルギー産生能力を高めることが確認された
- 移植後のミトコンドリアは機能を保ったまま細胞内に定着し、細胞の増殖促進・酸化ストレスへの耐性向上・最大呼吸能力の増加という3つの明確な恩恵をもたらした
- ミトコンドリア移植療法はDNAを改変しない非遺伝子治療であり、パーキンソン病・アルツハイマー病・脳梗塞・心筋梗塞など、ミトコンドリア機能不全が根本原因となる多くの疾患への応用が期待される