NAA(N-アセチルアスパラギン酸)という物質をご存知でしょうか。聞き慣れない名前かもしれませんが、脳の世界では古くから知られてきた物質です。脳の中でもとりわけ豊富に存在し、この物質をつくる酵素や分解する酵素がうまく働かないと、深刻な神経の病気につながることもわかっています。
実際、分解する酵素の遺伝的な異常でNAAが脳にたまりすぎてしまうカナバン病という病気があり、逆に脳のNAAが減っていくことは、神経変性疾患で神経細胞が失われていくサインとして長年注目されてきました。
そんな「脳の物質」だったNAAが、いま思いがけない場所で脚光を浴びています。
中国・四川大学のチームがまとめたレビュー論文は、NAAをさまざまながんの代謝・生存・そして免疫からの逃避にまで関わる、新たな主役として描き出しているのです。
記事の要点
脳に多く存在し、神経の健康と関わってきたNAA(N-アセチルアスパラギン酸)が、多くのがんで増殖を支える栄養備蓄として働いていることが報告されています。
がんの種類によって挙動は正反対で、肝がんではNAAをつくること自体を抑え、余った材料をDNA合成に直接まわしているといいます。
NAAはナチュラルキラー細胞やT細胞といった免疫細胞の働きも弱めており、血中バイオマーカーや新しい治療標的としての可能性も注目され始めています。