1.6時間と16.7時間。イランの高校に通う15〜17歳の女子生徒で、4か月後の月経痛が続いた時間の平均を比べた数字です。前者がビタミンEを飲んだ群、後者が見た目の同じ偽薬を飲んだ群でした。
2005年に英国の産婦人科誌『BJOG』で報告されたこの試験では、ビタミンEを毎日ずっと飲むのではなく、月経の2日前から出血が始まって3日目までの、1周期あたり5日間だけ使っています。
ただし、その後の試験で同じ大きさの差がくり返し出たわけではありません。使われた量も、食事でとる量とは桁が違います。試験の結果と限界を見たうえで、ビタミンEが体のどこで痛み物質づくりに関わるのか、そして日々の食卓で何ができるのかを順に見ていきます。
記事の要点
- 月経の前後5日間だけビタミンEを飲んだ群では、4か月後の痛みの持続時間が平均1.6時間で、偽薬群の16.7時間より短くなっていました。
- その後の試験では差が小さかったり、痛みの点数そのものには差が出なかったりで、同じ大きさの効果は再現されていません。
- 月経痛の主役の痛み物質をつくる酵素は過酸化物を火種に動き出し、ビタミンEはその火種を減らす形で酵素の働きを抑えることが、動物の細胞で確かめられています。
5日間だけ使った試験

月経痛のうち、子宮内膜症などの病気がないものを原発性月経痛と呼びます。若い女性に多く、学校を休む理由にもなる身近な痛みです。
試験はテヘランの1つの中等学校で行われました。原発性月経痛のある15〜17歳の288人をくじ引きで2つの群に分け、本人も配る側もどちらを飲んでいるかわからない形で進めています。
ビタミンE群は1回200 IU(国際単位)を1日2回、月経予定日の2日前から出血3日目まで飲み、これを4周期続けました。痛みがつらいときに鎮痛薬のイブプロフェンを使うことは、両群とも認められています。最後まで残った278人が解析の対象です。
痛みの強さは、0(痛みなし)から10(耐えられない痛み)の目盛りで答えてもらいました。2か月後の中央値はビタミンE群3、偽薬群5、4か月後は0.5と6です。痛みが続いた時間の平均は、2か月後に4.2時間と15時間、4か月後に1.6時間と16.7時間でした。
月経血の量を絵の表で見積もる点数も、ビタミンE群で低くなっていたと報告されています。ただし、数字の幅は大きく、全員が同じように軽くなったわけではありません。
4か月後のビタミンE群の持続時間は、平均1.6時間に対して標準偏差が4.0時間で、人によるばらつきがあります。月経の前後5日間に絞って使った群で、痛みが続く時間が大きく縮んだ試験でした。
その後の試験と、この試験の限界
2013年に報告されたイランの別の試験では、原発性月経痛のある女性120人のうち94人が最後まで参加しました。ビタミンEを1日400 IU、月経開始の2日前から5日間、2周期使っています。
2か月目の痛みの点数は、ビタミンE群4.73、偽薬群5.35で、点数そのものには大きな差がありませんでした。開始前からの下がり幅は、ビタミンE群でマイナス2.7、偽薬群でマイナス1.8で、ビタミンE群のほうが大きく下がっていたと報告されています。偽薬でも痛みが和らいでいたことになります。
2018年には、イランの女子大学生100人を、ビタミンE、魚油、両方、偽薬の4群に分けた試験も報告されました。ビタミンEは1日200 IU、魚油はEPA180mgとDHA120mgで、どちらも偽薬より痛みが軽くなり、組み合わせた群がいちばん大きく下がったとされています。
2005年の試験には、注意すべき点もあります。対象は1つの学校の若い生徒に限られ、途中でやめた人を除いて解析しています。副作用を細かく数えた記録も十分ではありません。原著の要約には不等号の向きなどの表記の乱れがあり、数値は方法と結果の表で確かめる必要があります。
効果の向きは後の試験でもおおむね同じでしたが、2005年ほどの大きな差は、ほかの試験でははっきり確かめられていません。
痛み物質プロスタグランジンができるまで
月経の前後、はがれ落ちる子宮内膜ではプロスタグランジンという物質が多くつくられます。子宮の筋肉を強く縮ませ、血管も締めつけるため、これが原発性月経痛の主な原因と考えられています。イブプロフェンのような鎮痛薬は、このプロスタグランジンをつくる酵素を止めて効きます。
材料は、細胞膜に組み込まれたアラキドン酸という脂肪酸です。まず膜からアラキドン酸を切り出す酵素が働き、切り出されたアラキドン酸をシクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素が酸素と結びつけて、プロスタグランジンのもとをつくります。
ここで大事なのが、COXの始まり方です。COXは、材料があるだけでは動き出しません。過酸化脂質のような過酸化物がわずかにあると、それを火種にして酵素の中心が活性化し、そこから反応が連鎖します。この火種の量は「ペルオキシドトーン(過酸化物の張り)」と呼ばれ、薬の効き方まで左右することが知られています。
つまり、痛み物質の工場は、材料と工場の機械だけでなく、点火に使う火種があってはじめて動き出します。
ビタミンEは火種を減らす

ビタミンEの本体であるα-トコフェロールは、細胞膜の脂質の中に入り込んで働く脂溶性ビタミンです。分子の頭にある水酸基(−OH)から水素を1つ渡して、脂質がつぎつぎと酸化されていく連鎖を止めます。これが、いわゆる抗酸化の働きです。
この働きがCOXにどう関わるかを調べたのが、米国の研究グループです。2002年の報告では、年をとったマウスのマクロファージ(免疫細胞の一種)でプロスタグランジンE2が多くつくられていて、その原因はCOXの量ではなく、COXの働きの強さでした。
えさのビタミンEを30ppmから500ppmへ増やすと、COXのたんぱく質の量は変わらないまま、COXの働きとプロスタグランジンE2が下がりました。カギになったのは、一酸化窒素とスーパーオキシドが出会ってできるペルオキシナイトライトという過酸化物です。ビタミンEはこれを減らし、COXの火種を断っていたと報告されています。
ペルオキシナイトライトを外から加えると、ビタミンEが少ないえさのマウスの細胞ではCOXの働きが上がりました。一方、ビタミンEを多く与えたマウスの細胞では上がりませんでした。
もう一段手前の、アラキドン酸を膜から切り出す酵素にも、ビタミンEは触れています。1986年のラットの研究では、血小板のこの酵素の働きが、えさのビタミンEが多いほど低くなっていました。試験管でも、トコフェロールの水酸基が酵素を抑えるのに必要で、水酸基をふさいだ酢酸エステルの形ではほとんど効かなかったとされています。
いずれも動物の細胞と試験管での結果で、人の子宮内膜で同じことが起きているかは、まだ確かめられていません。2005年の試験でも、プロスタグランジンの量そのものは測っていません。
ビタミンEは痛み物質の工場そのものを壊すのではなく、点火の火種と材料の切り出しを控えめにする、という位置にいます。
魚の脂と組むと
2018年の試験で魚油との組み合わせが目を引いたのにも、同じ工場の話がつながります。魚油のEPAは、アラキドン酸と同じ場所で膜に入り、同じCOXに材料として使われます。
2005年の総説によると、EPAはアラキドン酸からプロスタグランジンがつくられるのを、COXの一つの型で抑えます。しかもEPAそのものは、火種となる過酸化物が少ない細胞ではCOXの材料になりにくいとされています。
EPAやアラキドン酸のように二重結合の多い脂肪酸は、酸化されやすい脂肪酸でもあります。体の中で、その酸化を食い止める役を受け持つのがビタミンEです。魚の脂をとるときにビタミンEを一緒にとるのは、組み合わせとして理にかなっています。
材料をEPAに寄せる魚の脂と、火種を減らすビタミンEは、同じ痛み物質の工場に別の入口から関わっています。
食卓でビタミンEをとる

日本人の食事摂取基準(2025年版)では、ビタミンE(α-トコフェロール)の目安量は女性で1日5.0〜6.0mg、男性で6.5〜7.5mgです。令和6年国民健康・栄養調査の平均摂取量は、20歳以上の女性で6.5mg、男性で7.1mgで、平均では目安量に届いています。
日本食品標準成分表(八訂)増補2023年では、可食部100gあたりのα-トコフェロールは、いりアーモンド(無塩)29.0mg、ひまわり油(ハイリノール)39.0mg、うなぎのかば焼き4.9mg、赤ピーマン4.3mg、ゆでた西洋かぼちゃ3.4mg、アボカド3.3mgです。
量に直すと、アーモンド20gで約5.8mg、ひまわり油大さじ1(12g)で約4.7mg、ゆでかぼちゃ80gで約2.7mg、赤ピーマン50gで約2.2mgになります。ビタミンEは脂に溶けるので、かぼちゃや赤ピーマンは油で炒めると、油の分もあわせてとれます。魚の献立にナッツや緑黄色野菜を添えれば、EPAとビタミンEを同じ食事でそろえられます。
試験で使われた量は、まったく別の水準です。米国国立衛生研究所の資料では、天然型のビタミンE 1 IUは0.67mg、合成型は0.45mgにあたります。1日400 IUは、型によって約180〜270mgで、食事の目安量の30倍以上になります。
日本の耐容上限量は、成人女性で650〜700mg、男性で800mgと高めです。ただし同じ資料は、高用量のビタミンEは血液を固まりにくくする方向に働くため、抗凝固薬や抗血小板薬を使っている人では出血に注意が要るとしています。試験の量は、自分で飲む量の目安にはなりません。
食事でとるビタミンEは、細胞膜の脂を毎日守る土台です。ナッツ、植物油、緑黄色野菜を日々の献立に散らしておくことが、火種を増やしにくい体の下地になります。
まとめ
月経の前後5日間だけビタミンEを飲んだ若い女性たちでは、4か月後に痛みの続く時間が平均1.6時間となり、偽薬群の16.7時間と大きく開きました。後の試験では差が小さく、全員に同じ効果が出たわけでもありませんが、改善の向きは共通していました。
痛み物質プロスタグランジンをつくるCOXは、過酸化物を火種にして動き出します。ビタミンEはその火種や材料の切り出しを控えめにする位置にいることが、動物の細胞で示されています。
食卓では、アーモンドや植物油、かぼちゃや赤ピーマンを油と組み合わせ、魚の献立にも添えて、ビタミンEを毎日の食事に行き渡らせるところから始められます。
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参考文献
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* 文部科学省. 日本食品標準成分表(八訂)増補2023年. https://fooddb.mext.go.jp/
* National Institutes of Health Office of Dietary Supplements. Vitamin E Fact Sheet for Health Professionals. https://ods.od.nih.gov/factsheets/VitaminE-HealthProfessional/