筋肉の病気に隠れたNAD不足:ナイアシンで腹筋の力が10倍に

筋肉の病気に隠れたNAD不足:ナイアシンで腹筋の力が10倍に

まぶたの筋肉だけは、10か月たっても元に戻りませんでした。2020年にCell Metabolism誌で報告されたフィンランドの研究では、成人になってから発症するミトコンドリアの筋肉の病気の患者5人が、ビタミンB3の一種であるナイアシン(ニコチン酸)を飲み続けました。

腹筋の力は開始時の平均10倍になった一方、早い時期に弱った目の筋肉は改善しなかったと報告されています。

この研究で見えてきたのは、筋肉の病気の陰に、エネルギーづくりに欠かせない補酵素NADの不足が隠れていたことです。そしてNADは、単独では働きません。受け取った電子を次へ渡す相棒として、ビタミンB2からできる補酵素が待っています。

記事の要点

  • ミトコンドリアの筋肉の病気の患者5人では、筋肉と血液のNADが健康な人の約半分で、ナイアシンを10か月飲むと筋肉のNADが健康な人の水準に戻りました。
  • 腹筋の力は平均10倍になりましたが、対照を置かない5人の試験で、最大酸素摂取量と生活の質は大きく変わっていません。
  • NADが運んだ電子はビタミンB2由来のFMNが受け取り、トリプトファンからNADをつくる酵素もB2由来のFADを使うため、食卓ではB2を毎日少しずつ積み上げる視点が役立ちます。

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5人の筋肉に足りなかったもの

研究の対象は、まぶたが下がり、目を動かす筋肉が弱り、全身の筋力低下や運動のしにくさがある患者5人です。全員の筋肉に、ミトコンドリアの遺伝子の一部が欠けた変化がありました。性別と年齢をそろえた健康な人10人も同じナイアシンを飲み、比べる相手になっています。

まず、飲み始める前の状態です。太ももの筋肉を少量採って調べると、患者の筋肉のNADは健康な人の約2分の1でした。血液のNADも約2分の1です。一方で、NADを使って壊す反応でできる物質は患者で多く、NADが使われる勢いが強まっている様子もうかがえました。

著者らは、この状態を「代謝のペラグラ」と呼んでいます。ペラグラはナイアシン不足で起きる病気の名前です。患者は食事が足りないのではなく、病気の筋肉のなかでNADが目減りしていた、という見立てです。

ナイアシンは徐放性のカプセルで1日250mgから始め、4週ごとに250mgずつ増やして、750〜1,000mgまで上げています。患者は10か月、健康な人は4か月続けました。

血液のNADは8倍、それでも変わらなかったもの

10か月後、患者の血液のNADは開始時の8.2倍になりました。筋肉のNADは2.3倍で、健康な人と同じ水準に届いています。健康な人では血液のNADが約5倍になったものの、筋肉のNADは変わりませんでした。健康な筋肉では、NADの量が上限近くに保たれていると著者らは考えています。

筋力は筋肉によって差が出ました。腹筋は平均10倍、背筋は2倍、肩と肘は2.5倍で、膝を伸ばす力は1.1倍とほとんど変わっていません。腹筋と肩は、決まった動作をくり返して測る動的な検査で、数字は開始時と比べた倍率です。何回できるようになったかという回数そのものは、論文の本文では示されていません。

変わらなかった結果もあります。自転車をこぐ検査での最大酸素摂取量は、はっきりした変化がありませんでした。筋肉の症状、睡眠、気分、生活の質を聞いた質問票の答えも、平均するとほぼ同じです。ミトコンドリアの遺伝子の欠けや、顕微鏡で見える形の乱れも残りました。

患者には、肝臓の脂肪が半分ほど減った、筋肉のミトコンドリアが増えたといった変化も報告されています。ただし、試験は誰がナイアシンを飲んでいるかを全員が知っている形で、患者は5人だけです。くり返し検査を受けることで慣れる影響も切り分けられず、著者ら自身が、より大きな対照つきの試験が必要だと述べています。

体への負担も記録されています。1日500mgを超えると全員に顔のほてりや手足のチクチク感が出ました。健康な人10人のうち2人は胃腸の不調で途中でやめています。空腹時の血糖が上がり、患者ではヘモグロビンと赤血球が少し減りました。

後に続いた研究も、効果の幅を示しています。2024年に報告された4歳発症の子どもの1例では、ナイアシンで血液のNAD不足は正され、代謝の物質の並びも健康な人に近づきましたが、病気の進行は止まりませんでした。

体の働きが落ちた高齢者14人を対象にした2021年の試験では、ナイアシン当量で1日207.5mgの組み合わせを32日飲んでも、筋肉のNADもミトコンドリアの働きも変わっていません。対象も量も違うため、どれか一方が誤りとは言えません。NADが目減りした筋肉で、はじめて補う意味が出てくる可能性があります。

不足が確かめられた筋肉ではNADが戻り、腹筋の力は伸びた一方で、体全体の持久力や暮らしの実感までは変わりませんでした。

NADが運んだ電子を受け取るビタミンB2

NADは、運び屋のような補酵素です。糖や脂肪を分解するときに出る電子を受け取るとNADHになり、ミトコンドリアまで運びます。荷物を下ろしてNADに戻れば、また次の電子を受け取れます。

荷物を下ろす先が、ミトコンドリアの「複合体I」という大きな酵素です。この酵素で最初にNADHから電子を受け取るのが、FMNという補酵素です。FMNはビタミンB2(リボフラビン)からつくられます。

複合体Iの外側に張り出した部分にFMNが1つあり、そこから鉄と硫黄でできた中継点を次々に伝わって、電子が奥へ進む仕組みが立体構造の研究から示されています。

この研究の患者の筋肉には、複合体Iが少ない筋線維がありました。ナイアシンを10か月続けると、そうした筋線維の数は減ったと報告されています。NADHを受け止める入口にB2由来のFMNが座っている以上、NADを増やした効果が電子の流れに乗るには、入口の側も整っている必要があります。FMNやFADを作る材料のB2を大量に使う治療が、複合体Iが働きにくい一部の遺伝性の病気で試されてきました。

2026年の系統的レビューでは、B2に反応した複合体I欠損の報告が既存の43例に新しい2例を加えてまとめられ、筋肉の病気も12例含まれています。いずれも特定の遺伝子の変化をもつ人の症例で、用量も体重1kgあたり最大10mgと医療の量です。

つまり、NADを荷物の運び手とすると、ビタミンB2はその荷物を受け取る係です。

NADの材料づくりにもB2が関わる

NADは、食べ物のナイアシンからつくられるほか、たんぱく質に含まれるアミノ酸のトリプトファンからもつくられます。日本の食事摂取基準が「ナイアシン当量」という単位を使うのは、トリプトファンの60分の1をナイアシンとして数えるためです。

トリプトファンからNADへ向かう道の途中に、キヌレニンという物質に酸素を1つ付ける酵素があります。この酵素は、B2からできるFADを1分子ずつ抱えて働くことが、ヒトの酵素を使った試験管の実験で確かめられています。少し先の段階では、ビタミンB6由来の補酵素を使う酵素も働きます。

ノルウェーの住民7,051人を調べた観察研究では、血液のリボフラビンが中央値(13.0ナノモル/L)より低い範囲で、リボフラビンが多い人ほど、この道を先へ進んだ物質の濃度が高い関係でした。低めから普通の範囲で、B2の多さが流れの進み方と並んで動いていたことになります。

ただし関連を見た研究で、B2を増やせばNADが増えると確かめたものではありません。人の筋肉のNADとB2の関係は、まだ報告されていません。材料からNADをつくる段階でも、できたNADが電子を渡す段階でも、B2はその場に居合わせています。

食卓では、ナイアシンよりB2が届きにくい

日本人の食事を見ると、ナイアシンはよくとれています。令和6年国民健康・栄養調査では、20歳以上の平均のナイアシン当量は男性34.2mg、女性28.5mgで、成人の推奨量(男性13〜16mg、女性10〜12mg)を大きく上回ります。肉や魚、たんぱく質の多い食事全体が、ナイアシンとトリプトファンの両方を運んでいるためです。

一方、B2の平均は男性1.23mgで、推奨量1.4〜1.7mgに届いていません。女性は1.10mgで、推奨量1.1〜1.2mgとほぼ同じです。平均が推奨量を下回るということは、男性には推奨量に届かない人が多いことを示しています。

日本食品標準成分表(八訂)増補2023年では、可食部100gあたりのB2は豚レバー3.60mg、牛レバー3.00mg、アーモンド1.11mg、うなぎのかば焼き0.74mg、納豆0.56mg、普通牛乳0.15mgです。納豆40gで0.22mg、牛乳200gで0.30mg、アーモンド20gで0.22mgになります。

朝の牛乳、昼の納豆、間食のアーモンドを組み合わせると、それだけで約0.7mgです。B2は水に溶けやすいので、ゆで汁ごと食べる汁物にすると、溶け出した分も口に入ります。

試験で使ったナイアシンの量は、食事とはまったく別のものです。食事摂取基準のニコチン酸の耐容上限量は、成人男性で1日80〜85mg、女性で60〜65mgで、試験の750〜1,000mgはその9倍以上にあたります。医療の管理のもとで血液検査を重ねながら使われた量であり、サプリメントで同じ量を試す目安にはなりません。

ナイアシンは食事で十分に入ってきますが、NADを回すB2は、男性では毎日の食品で意識して足していく必要があります。

まとめ

ミトコンドリアの病気で弱った筋肉では、補酵素NADが目減りしていました。ナイアシンでNADを健康な人の水準に戻すと、腹筋や腕の力は伸びましたが、持久力や暮らしの実感、病気の根の遺伝子の変化までは変わっていません。対照のない5人の結果で、効果を確かめるのはこれからです。

NADは電子の運び手で、受け取る側にはB2由来のFMNが、NADの材料づくりにはB2由来のFADが働いています。ふだんの食事では、ナイアシンを特別に増やすより、男性で推奨量に届きにくいB2を、牛乳・納豆・アーモンド・レバーなどで一日に分けて足していくことが、エネルギーを回す仕組みの土台を支えます。

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参考文献

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