ビタミンCと細胞の初期化:培養したマウスと人の細胞からiPS細胞を作りやすくした

ビタミンCと細胞の初期化:培養したマウスと人の細胞からiPS細胞を作りやすくした

細胞を育てる液に、ビタミンCを加える。そこから、細胞の性質を変える技術と、食事でなじみ深い栄養素との接点が見えてきました。酸化から体を守る働きに加えて、遺伝情報の使い方を調節する酵素にも、ビタミンCが関わっています。

初回公表は2009年12月31日。EstebanらがCell Stem Cellに報告したのは、マウスと人の体細胞からiPS細胞を作る際、ビタミンCがその過程を助けるという発見です。栄養素が、細胞内で遺伝子の働く状態を変える反応にも関わることを知る入口になりました。

記事の要点

  • マウスと人の培養細胞を使った研究で、ビタミンCはiPS細胞を作る速さと効率を高めました。人が飲んだときの若返り効果を調べた試験とは区別する必要があります。
  • その後、遺伝情報につく印を変える酵素との接点が示されました。マウスの胚性幹細胞では、DNAの印を酸化するTet1とTet2を両方失うと、ビタミンCによる印の変化が抑えられました。
  • 食卓では、日本人の摂取量と推奨量を確かめ、赤ピーマンやブロッコリーなどを日々の料理へ組み込むことが現実的です。培養液の濃度を、サプリメントの目標量には移しません。

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培養した細胞で、変化の進み方が変わった

図1 ビタミンCは、特定の因子でマウスと人の体細胞を初期化する培養条件の一部として、iPS細胞の生成を助けました。人の摂取試験ではありません。Estebanらの原著抄録に基づく自作模式図。

iPS細胞は、体細胞に特定の因子を働かせ、さまざまな細胞へ分かれる能力を持つ状態に戻した細胞です。この操作は「初期化」と呼ばれます。Estebanらの研究が取り組んだのは、初期化に時間がかかり、効率も低いという技術上の課題でした。

ビタミンCを加えると、マウスと人の体細胞からiPS細胞ができやすくなりました。著者らは、初期化の妨げになる細胞老化を和らげることが、少なくとも作用の一部を説明すると報告しています。遺伝子の発現変化も速まり、途中の状態にある細胞集団が、より完全に初期化された状態へ進みました。

ここでいう人の細胞は、体外で培養して操作した細胞です。人に食事やサプリメントを摂ってもらい、体内の細胞や寿命がどう変わるかを追った研究ではありません。見つかったのは、細胞を作り替える実験条件の中で、身近な栄養素が反応の進み方を左右するという現象でした。

同じ遺伝情報を持つ細胞でも、その情報のどこを使うかによって性質が変わります。ビタミンCの発見は、この「使い方」の調節へ栄養が関われることを、培養細胞の変化として示しました。

遺伝情報の印を変える酵素にも関わる

図2 マウス胚性幹細胞と取り出した酵素の実験で、ビタミンCとTetによるDNAの印の変換を調べました。食事による人体の初期化効果は未検証です。Blaschkeらの原著本文に基づく自作模式図。

初期化では、遺伝子が働きやすい状態か、抑えられた状態かも整えていきます。DNAにつくメチル基という小さな化学的な印は、その調節に関わります。印の位置によって意味は異なり、たくさん外せばよいというものでもありません。

2011年のWangらの研究は、DNAを巻き付けているヒストンというたんぱく質に注目しました。ヒストンの印を外す酵素Jhdm1aとJhdm1bが、ビタミンCに依存した初期化を助けることを、酵素を増やす操作と減らす操作から示しています。細胞老化や細胞周期の調節との関わりも報告されました。

さらに2013年、Blaschkeらはマウスの胚性幹細胞で、DNAの印を変える反応を調べました。胚性幹細胞は、胚に由来し、多様な細胞へ分かれる能力を持つ細胞です。体細胞から作るiPS細胞とは出発点が異なりますが、遺伝情報の使われ方を調べる材料になります。

この研究で重要だったのが、DNA上のメチル化されたシトシンを酸化するTetという酵素です。シトシンはDNAを構成する文字の一つです。Tetは、メチル基のついたシトシンを、ヒドロキシメチル基のついた形へ変えます。この反応が、印を外していく過程の入口になります。

Tetは、二価の鉄と、反応を助ける2-オキソグルタル酸を使う酵素の仲間です。Blaschkeらは、取り出したTet1の反応を調べ、ビタミンCを加えると活性が高まることを確認しました。同じ条件で調べたグルタチオンなどの抗酸化物質では、同様の増加が起きませんでした。

細胞でも、Tet1とTet2を両方なくすと、ビタミンCによるDNAの印の変化が抑えられました。これにより、「酸化を抑える物質を入れたから」という大まかな説明から、どの酵素の反応が必要なのかを示す説明へ進んでいます。ビタミンCが働く場所が、遺伝情報に印をつけ替える反応として具体的になったのです。

変わる場所と、保たれる場所がある

2013年の胚性幹細胞の研究では、ビタミンCを加えた12時間後と72時間後に、DNAの印を調べています。解析した遺伝子の働き始めを調節する領域のうち、61%では、72時間後にメチル化が半分以下になりました。ただし、これは解析対象の領域についての割合です。細胞の61%が初期化したという意味ではありません。

一方、親から受け継いだ由来によって働き方が決まる遺伝子の領域などには、印が保たれる場所もありました。遺伝子の発現が2倍を超えて変わったのは約200個で、DNAの印が減ることと、すべての遺伝子が一斉に働き出すことは別でした。

同じ2013年のChenらの初期化研究では、ビタミンCがある条件でTet1を増やすと初期化が妨げられ、Tet1を失うと初期化が進みました。ビタミンCの有無でTet1の作用方向が変わり、酵素の量を増やすほど望ましいという関係にはなりませんでした。

細胞の出発状態、加える因子、培養条件によって、同じ酵素の意味も変わります。栄養が関わる反応を知ることと、その反応を大きく動かすことを勧めることには、間があります。今回の発見から日常へ持ち帰れるのは、細胞の仕事を支える栄養を、普段の食事で確保するという考え方です。

食事の目安は、培養液ではなく人の基準から

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、成人のビタミンCの推奨量は男女とも1日100mgです。令和6年国民健康・栄養調査の20歳以上の平均摂取量は、男性85mg、女性86mgでした。集団の平均は推奨量より低く、食事を振り返る余地があります。

ただし、この平均値から、足りない人の割合を計算することはできません。年齢や食べ方でも違いがあり、毎日の必要量を満たしているかは、個々の食事と合わせて考える話です。細胞実験の結果を根拠に、全員が大量のサプリメントを追加するという結論にはつながりません。

Blaschkeらの培養実験では、安定型のビタミンCであるL-アスコルビン酸2-リン酸を、培地に100μg/mL加えています。これは細胞を浸す液の濃度であり、人の1日の摂取量とは単位も条件も違います。食べたビタミンCは、消化管からの吸収や体内での分布、排泄を経て細胞へ届きます。

食事の基準は、人が健康を保つために必要な量を考えたものです。培養の条件と分けることで、研究の面白さを保ちながら、実際の食べ方も選びやすくなります。

赤ピーマンを添える、ブロッコリーを副菜にする

文部科学省の食品成分データベースでは、生の赤ピーマンは可食部100gあたりビタミンCを170mg含みます。50gなら85mgです。ゆでたブロッコリーは100gあたり55mgで、50gなら27.5mgになります。どちらも成分表の値から重量で計算したもので、特定の料理を食べたときの体内作用を測った数字ではありません。

たとえば、生の赤ピーマン50gを細く切って豆のサラダへ加え、別の食事では、ゆでたブロッコリー50gを卵や魚に添える。計算上、この二つの食品に含まれるビタミンCは合計112.5mgです。一度の食事に集めるよりも、食べやすい料理へ分けて置く方法があります。

量を知ると、献立に足す大きさも考えやすくなります。赤ピーマンを主役の皿いっぱいにする必要はなく、サンドイッチの具や副菜の一部として使えます。ブロッコリーも、主菜に添える分を取り分ければ、毎回同じ料理にする必要はありません。食べられる量を一度量っておくと、その後の目安になります。

NIHの栄養資料は、ビタミンCが植物性食品からの鉄の吸収を助けることも説明しています。豆料理に赤ピーマンを加える組み合わせには、ビタミンC源を確保するとともに、鉄の利用を支えるという接点があります。ここでの目的は、細胞を初期化することではなく、日々必要な栄養を食事へ組み込むことです。

調理では、生で食べられる食品と、加熱して食べやすくする食品を組み合わせられます。ビタミンCは保存や調理で減ることがあり、NIHの資料では蒸す方法や電子レンジ調理が損失を抑えうるとされています。今回示したブロッコリーの数値は「ゆで」の項目なので、別の調理法の量へそのまま置き換えずに使います。

高用量のビタミンCは、下痢や吐き気、腹部の不快感を起こすことがあります。鉄が過剰にたまる病気では、高用量が鉄の過剰を悪化させる可能性もあります。量を増やすほど細胞の働きが整うという発想より、食品の種類と食べる機会を確保するほうが、日々の献立として続けやすくなります。

まとめ

遺伝情報の働き方を整える酵素にも、食事で摂るビタミンの出番があります。培養細胞で見つかった反応を知ると、ビタミンCを含む食品を選ぶ理由が、抗酸化という言葉の先へ広がります。

いつもの豆料理に彩りを加え、主菜の横に野菜の副菜を置く。食べる量と調理後の含有量を手がかりに、一日の食事の中へビタミンC源を分けて組み込むことから始められます。

参考文献

* Esteban MA, Wang T, Qin B, et al. Vitamin C enhances the generation of mouse and human induced pluripotent stem cells. Cell Stem Cell. 2010;6(1):71-79. DOI: 10.1016/j.stem.2009.12.001. PMID: 20036631. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20036631/
* Wang T, et al. Cell Stem Cell 2011. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22100412/
* Blaschke K, et al. Nature 2013. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23812591/
* Chen J, et al. Nat Genet 2013. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24162740/
* 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準(2025年版). https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html
* 厚生労働省. 令和6年国民健康・栄養調査報告. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/r6-houkoku_00001.html
* 文部科学省. 食品成分データベース. https://fooddb.mext.go.jp/
* NIH Office of Dietary Supplements. Vitamin C Fact Sheet for Consumers. https://ods.od.nih.gov/factsheets/VitaminC-Consumer/

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