はじめに
オメガ3(EPA・DHA)の摂取については、賛否さまざまな意見があります。特に「酸化」の問題をめぐっては、専門家の間でも見解が分かれているのが現状です。
この記事では、その「酸化」について、エビデンスをもとに整理していきたいと思います。
たしかに、オメガ3脂肪酸(EPA・DHA)が化学的に酸化しやすいというのは事実です。二重結合が多い構造上、他の脂肪酸と比べて酸化が進みやすいのは間違いありません。
しかし、そこから「だから飲まない方がいい」という結論に至るまでには、かなり大きな飛躍があります。
この記事では、あまり知られていない、ある臨床試験のデータをもとに、酸化したオメガ3は本当に摂らない方がいいのか?を考えてみたいと思います。
1. 知られざるヒト臨床試験:酸化したフィッシュオイルを、あえて飲ませた実験
ノルウェーのアーケシュフース大学で、2011年に発表されたRCT(ランダム化比較試験)があります(Ottestad et al., British Journal of Nutrition, 2012)。
この研究は、私が知る限り、「酸化したフィッシュオイル vs 新鮮なフィッシュオイル」をヒトで直接比較した唯一の臨床試験です。
実験の概要
健康な成人54名(18〜50歳)を3つのグループに分け、7週間にわたって毎日カプセルを摂取してもらいました。
- グループA:新鮮なフィッシュオイル(1日8g、EPA+DHA 1.6g)
- グループB:意図的に酸化させたフィッシュオイル(1日8g、EPA+DHA 1.6g)
- グループC:高オレイン酸ひまわり油(対照群)
ここで注目すべきは、グループBのフィッシュオイルは「たまたま酸化してしまった」ものではなく、研究のために意図的に酸化させたものだということです。
過酸化物価(PV)は18 meq/kg、アニシジン価(AV)は9で、業界の品質基準(TOTOX<26)を大きく超えるTOTOX 45という、かなり酸化の進んだオイルでした。
◼️結果① ― 炎症も酸化ストレスも起きなかった
7週間後の結果は、多くの方にとって意外なものかもしれません。
3つのグループの間で、以下の指標に有意な差は見られませんでした。
- 尿中8-iso-PGF2α(酸化ストレスの指標)
- 血漿中4-HHE、4-HNE(脂質過酸化の指標)
- 血漿中α-トコフェロール(ビタミンE)
- 高感度CRP(炎症の指標)
- 赤血球中の抗酸化酵素活性
つまり、かなり酸化したフィッシュオイルを7週間毎日飲み続けても、体内の炎症マーカーや酸化ストレスマーカーに変化がなかったということです。
◼️結果② ― EPA・DHAの血中濃度は同じように上昇した
さらに驚くべきことに、酸化したフィッシュオイルを飲んだグループでも、新鮮なフィッシュオイルを飲んだグループでも、血漿中のEPA+DHA濃度は同程度に上昇しました。
これは、酸化したオイルでも、EPA・DHAの補給という基本的な役割は果たせていることを意味します。
2. でも、「安全=効果が同じ」ではなかった
じゃあ酸化してても問題ないの?
そう思いたくなるところですが、話はここで終わりません。
同じ研究グループが2017年に発表した追加解析(Ottestad et al., British Journal of Nutrition, 2017)では、もう一歩踏み込んだ分析が行われました。
NMR分析でリポタンパク質のサブクラスを詳細に調べたところ、高品質のフィッシュオイルは、酸化フィッシュオイルと比較して、IDL粒子や大・中・小のLDLサブクラスの濃度を有意に減少させたことがわかりました。
つまり、脂質改善というオメガ3に期待する本来の効果は、酸化オイルでは十分に得られなかったということです。
整理すると

このデータから見えてくるのは、酸化オイルは急性の害は起こさないが、本来の効果を十分に発揮できていないという、慎重な見解とも楽観的な見解とも違う、第三の結論です。
3. なぜ「酸化=摂らない方がいい」とは言えないのか
酸化した油を飲んだら、体に悪いに決まっている、そう思うのは自然なことです。でも、私たちの体には酸化脂質に対する防御システムが備わっています。
◼️防御1:胃での分解と変換
研究者のKannerらは、胃を「バイオリアクター」と表現しています。胃に入った酸化脂質は、胃酸や他の食品成分の影響を受けて分解・変換されます。摂取した過酸化脂質がそのまま体内に入るわけではありません。
◼️防御2:小腸での吸収選別
消化管シミュレーション研究では、酸化レベルが上がったPUFAは、小腸での生体利用可能量が減少し、腸管細胞への取り込み効率も低下することが報告されています。
つまり、酸化された脂質は、腸が選別してあまり吸収しない傾向があるということです。
◼️防御3:GPX4による還元
仮に酸化脂質が吸収されたとしても、体内にはGPX4(グルタチオンペルオキシダーゼ4)という専用の酵素があります。
GPX4は、有毒な脂質ヒドロペルオキシドを無毒な脂質アルコールに還元します。この酵素は、細胞膜に埋め込まれた状態の酸化脂質まで処理できるという、非常にユニークな能力を持っています。
ただし、この防御システムを動かすにはグルタチオン(GSH)が消費されます。酸化オイルを処理する分だけ、他の解毒や細胞保護に使える資源が減るということ。これが体への負担の正体です。
4. 慎重な意見の正しい部分と飛躍している部分
ここまでのエビデンスを踏まえて、日本で広まっている否定的な意見を整理してみましょう。
事実として正しい部分
- オメガ3脂肪酸は化学的に酸化しやすい性質を持っています。
- 品質の悪いサプリメント製品が存在するのも事実です。
- 酸化したオイルでは本来の脂質改善効果が落ちます。
- 処理のために体の抗酸化資源が消費されます。
飛躍している部分
- 「酸化する=人体に害」という直接的なヒトでの証拠は、現時点では存在しません。唯一の臨床試験はむしろ安全性を示しています。
- 体内には酸化脂質を処理する複数の防御メカニズムがあります(胃での分解、小腸での吸収選別、GPX4による還元)。
- 「だから飲まない方がいい」という結論は、これらの防御機構を無視した主張です。
長期的なリスクは?
ただし、正直に申し上げると、長期的な影響についてはまだわかっていない部分があります。
唯一の臨床試験は7週間という比較的短い期間のものでした。動脈硬化に関連する酸化LDLや頸動脈内膜厚、DNA損傷のマーカーなどは評価されていません。
「安全だから何でもいい」とは言い切れない。でも「危険だから飲まない方がいい」とも言い切れない。これが、エビデンスに対して誠実な立場です。
5. じゃあ、どうすればいいの? :実践的なアドバイス
「酸化しやすい=摂らない方がいい」ではなく、
「酸化しやすい=正しい摂り方がある」。
これが、今回のエビデンスから導かれる最も実践的な結論です。
◼️品質の良い製品を選ぶ
GOED(Global Organization for EPA and DHA Omega-3s)の基準では、過酸化物価(PV)<5 meq/kg、アニシジン価(AV)<20、TOTOX<26が推奨されています。
IFOS(International Fish Oil Standards)の認証を取得している製品であれば、第三者機関による品質チェックを受けていることになります。
◼️抗酸化物質と一緒に摂る
フィッシュオイル自体には、オリーブオイルのようなポリフェノールの盾がありません。
ノルウェーのSINTEFの研究では、ポリフェノール豊富なエキストラバージンオリーブオイルとブレンドしたフィッシュオイルは、ビタミンE単独添加のものより約4倍の酸化安定性を示しました。
食事と一緒に摂る、エキストラバージンオリーブオイルを使った料理と合わせるなど、工夫次第で酸化リスクは大幅に軽減できます。
◼️体内の「受け手側」の防御力も整える
GPX4が機能するにはセレンとグルタチオンが必要です。
グルタチオンの材料はアミノ酸(システイン・グルタミン酸・グリシン)、つまり十分なタンパク質摂取が土台になります。
ビタミンCはビタミンEやグルタチオンを再生する役割を担っています。
オメガ3の効果を最大限に引き出すには、オメガ3だけでなく、抗酸化の栄養素全体を整えることが大切です。
まとめ
今回の記事で最もお伝えしたかったのは、「酸化するから飲まない方がいい」と「酸化してても大丈夫」の間に、エビデンスに基づいた正確な答えがあるということです。
この記事のポイント
- 酸化したフィッシュオイルを7週間摂取しても、炎症・酸化ストレスのマーカーに変化はなかった(唯一のヒトRCT)
- 酸化したオイルでもEPA・DHAは新鮮なオイルと同等に血中に吸収された。
- ただし、脂質改善効果は新鮮なオイルの方が優れていた。
- 体には酸化脂質に対する複数の防御メカニズムがある。
- 品質の良い製品を選び、抗酸化物質と組み合わせることで、オメガ3の効果を最大化できる。
次回は、「酸化したオイルを飲んだら体内でどうなるのか ― 胃・小腸・吸収後の動態」について、さらに詳しく掘り下げていきます。
◼️参考文献
1. Ottestad I, et al. Oxidised fish oil does not influence established markers of oxidative stress in healthy human subjects: a randomised controlled trial. Br J Nutr. 2012;107(11):1676-1687.
2. Ottestad I, et al. High-quality fish oil has a more favourable effect than oxidised fish oil on intermediate-density lipoprotein and LDL subclasses: a randomised controlled trial. Br J Nutr. 2017;117(10):1291-1298.
3. Albert BB, et al. Oxidation of Marine Omega-3 Supplements and Human Health. Biomed Res Int. 2013;2013:464921.
4. Márquez-Ruiz G, et al. Changes and Effects of Dietary Oxidized Lipids in the Gastrointestinal Tract. Lipid Insights. 2008;2:LPI.S904.
5. Dasilva G, et al. Relative levels of dietary EPA and DHA impact gastric oxidation and essential fatty acid uptake. J Nutr Biochem. 2019;67:68-81.
6. Friedmann Angeli JP, et al. The Selenoprotein Glutathione Peroxidase 4: From Molecular Mechanisms to Novel Therapeutic Opportunities. Antioxidants. 2022;11(4):721.
7. GOED (Global Organization for EPA and DHA Omega-3s). Oxidation in Omega-3 Oils: An Overview. 2016.